2015年11月18日、
CNN Travelの英HPに、
田辺市熊野ツーリズムビューローや熊野の取り組みについてのインタビュー記事が掲載されました。

プロモーション事業部長 ブラッド・トウルが取材を受けた今回のインタビュー記事では、田辺市や地域の方々と連携して推進してきた田辺市熊野ツーリズムビューローの取り組みの特徴、また、地域に根差した着地型旅行業とインターネット予約サイト『熊野トラベル』等について詳しく紹介されています。
掲載記事については、下記をご参照ください。
【参考URL】
○CNN Travel:"What one Japanese city is teaching the world about responsible tourism"掲載ページ(英語)
http://edition.cnn.com/2015/11/18/travel/tanabe-tourism/日本語訳は以下をご覧ください。
-------------------------------------------------------------------------
出典:『
CNN Travel』
掲載日:2015年11月18日
著者:Maggie Hiufu Wong, CNN
「日本のある町が世界に伝えること〜責任ある観光〜(原題:
"What one Japanese city is teaching the world about responsible tourism"より翻訳)」
和歌山県田辺市 − 熊野古道のふるさと、和歌山県南部には、いくつもの巡礼の道が張り巡らされている。田辺市は、地域の振興と世界遺産の保全とを同時になしとげる画期的なモデルを発展させてきた。
日本の多くの町と同様に、2011年は田辺市の観光にとっても厳しい年であった。
2011年3月11日、マグニチュード8の地震とそれに続く津波が日本中に衝撃を与え、福島第一原発周辺からの住民の避難が行われた。
2011年3月から4月、日本全国でインバウンドの旅行者は約90%の落ち込みが予測されていた。さらに、田辺市では、秋の観光シーズンに向けて再編成に取り組んでいた矢先に9月の大型台風が地域を襲い、洪水と地滑りにより道路や家屋、鉄道が破壊され、新たに建設されたばかりの田辺市の世界遺産センターも被害を受けた。
「大変な被害でした」と田辺市熊野ツーリズムビューロー国際観光プロモーション部長のブラッド・トウルは言う。
■魔法のモデル
しかし、この災害の中から、思いもかけぬ結果が生まれた。田辺市で近年取り組まれてきた独自の観光モデルが確実に機能することが確かめられたのだ。
「我々のコミュニティ予約システムで予約した旅行者を除いて、この地域への旅行はすべてキャンセルとなりました」とブラッド。「旅行会社は、私たちのコミュニティに見切りをつけました。でも、我々は自分たちのコミュニティ予約システムを確立していたので強かった。運命を自分たちでコントロールすることができました。」「地元との関係の強さ、そして“草の根レベルの予約システム”(英語原文:"grassroots systems")のおかげで、田辺市の観光は、周辺の地域より早く回復することができました。」
この変化はどのくらいドラマティックだったのか?
田辺市熊野ツーリズムビューローの収入は、2011年の観光シーズンが始まる前までは、約3千万円であった。その後の災害の影響により、この数字に届くか否かと心配されていたものの、実際には、4千万円を超えた。2014年度から2015年度には、収入は、1億4600万を記録した。
この“草の根レベルのシステム”(英語原文:"grassroots systems")、ブラッドが開発に関わったこの画期的なコミュニティーベースの観光モデルとは、「地域住民が観光開発のプロセスに積極的に参画すること」である。つまり、観光のビジョンづくりから、予約システムの運営、インフラの改善、さらにいえばブランディング、マーケティング、セールスまで、地元住民の参画によって行われることである、とブラッドは言う。
カナダのマニトバという小さな町から来たブラッドと日本との関わりは1999年に遡る。2006年には、田辺市熊野ツーリズムビューロー立ち上げのメンバーとなった。彼は、人口約8万の小さな、あまり知られていない町の観光を振興するというチャレンジをしっかり見定め、地域に根差した予約システムの創出と言葉の壁の克服に乗り出した。
この地域では、小さな家族経営的な宿や業者が多く、マーケティングや外国語対応等に対応できる手段をもっていなかったため、特に海外からの旅行者にとっては、熊野地域について調べたり予約をしたりすることが困難であった。
しかし、地域の住民と相談し、日本語・英語によるインターネット予約システムをつくることによって、旅行者が地元事業者と直接予約することをより簡単にした。この結果、これまでなかった熊野に関する詳細な情報を幅広く提供するガイドとしての役割と、現地のサービス情報の発信を行うプラットフォームの役割を果たすことになった。「すべての事業者がメンバーになれます。すべての地元の事業者を一つのサイトにまとめることで、大都市の旅行会社ではなく地元の人々に利益がおちる仕組みです。」とブラッドは言う。
■他にはないもの
旅行者と事業者の間の仲介役を果たすため、ツーリズムビューローは旅行業資格を取得。これには、多大な資金と労力が必要であった。
「日本の観光市場は、強力な大規模旅行会社が長年支配してきました。だから、我々のような観光モデルをつくり、実際にそれが効果的であることを可視化することは誰もやっていなかった。」とブラッド。「日本でこのようなものは他にないと思います。」
膨大な時間をかけて地元の事業者との打ち合わせや会議を行い、計画に関する合意形成を行い、さらに価格や手数料等を決めていった。「私たちは、何か月もの間、毎日毎晩地元の事業者を訪ね、写真をとり、情報を整理して登録するという作業を行いました。」「日本で初めて、地域コミュニティが自分の旅行会社をつくり、国内外の旅行者に向けた予約システムを作ったのです」とブラッドは言う。
■世界的な認知の高まり
旅行業資格を取得するまでの準備作業には約3年を要した。2012年、予約システムが開始されて2年と経たないとき、田辺市は世界旅行ツーリズム協議会(World Travel and Tourism Council)が旅行ツーリズムにおける革新的な取り組みを称える「明日へのツーリズム賞(Tourism for Tomorrow Award)」の最終選考にまで進むこととなった。
2015年には、世界のツーリズムの中で責任ある観光(Responsible Tourism)を推進している団体や活動を表彰する「責任ある観光賞(World Responsible Tourism Award)」の候補にも名を連ねた。
今、田辺市には、ツーリズムの新しいモデルを学ぶために日本中から視察が訪れている。
■地元に自信を
田辺市熊野ツーリズムビューローの主たる役割は、熊野古道の保全とプロモーションである。熊野古道は、2004年にユネスコ世界遺産となり、世界遺産として登録されている世界でたった2つの巡礼道の一つとなっている(もう一か所はスペインのCamino de Santiago)。
保全とプロモーションの一環として、ブラッドのチームは、熊野の世界遺産に対して敬意を持つことの重要性について旅行者の意識を高めることも行っている。また、看板標識の付け替えが行われ、国内外の旅行者・巡礼者を迎える新しいビジターセンターも作られた。古道沿いの新しいトイレや休憩所は地元の人々によって運営されている。市街地の食事処ではメニューの英語化も行われ、旅行者が迷路のような小道を散策するためのマップもできた。
“レベルアップワークショップ”として行われた地元事業者とのワークショップ等を通じて、地元住民の異文化コミュニケーションのスキルも上達している。
古道沿いの休憩所でボランティアを行い、また熊野本宮大社のツアー案内も行っている松本聖子さんは言う。「私は若いとき大阪で働いていました。当時は自分の田舎なまりのアクセントが恥ずかしくて人目を気にしていましたが、故郷が世界遺産に認定されてからは、故郷を人に紹介することに自信を持てるようになりました。」
民宿を経営する年配の夫婦は、当初は外国人を受け入れることに神経質になっていたという。しかし、トレーニングの後、外国からの旅行者を喜んで受け入れている。今では、宿泊客の半分は外国人である。
■地元が嬉しいと旅行者も嬉しい
ブラッドは、地域コミュニティが参画することで、地域が自分たちの未来をコントロールする手段を持つことができると信じている。「地域コミュニティが力を注ぐことによって、コミュニティに影響を与える観光のあり方を自分で決めることができ、地元に力を取り戻すことができるのです。」
単に観光客の増加を求めるのではなく、田辺市では、責任ある観光客に来てもらうことを重視している。「観光客の数は重要ですが、それがすべてではありません。数字は時に作為的に操られる。私たちは、観光客の数に重点を置いてきませんでした。それよりむしろ、熊野に来たお客様がいかに満足してくれるか、ということが私たちの成長を表す指標なのです。」「また、お客様が実際に熊野で費やす時間と費用にも注目しました。少数の来訪者が多くの時間と費用をかけてくれるほうが、多数の来訪者が少しの時間と費用を費やしてくれることよりも、我々にとっても地元インフラにとってもいいのです。」「数字の先を見ること、地元の住民の実際の生活の質を見ることが重要です。地元の人々がハッピーでなければ、地域コミュニティは成功しないし生き残れない。地元にいい雰囲気があれば、それは訪問者にも伝わっていくのではないでしょうか。」
-------------------------------------------------------------------------